conversation-07:アンパンマン次長のY2K

〜1999年2月・都内在住、アンパンマンに激似な、某社次長宅にて〜

「ねえ、あなた」
「ん?」
「あなたの会社、ソフトの会社ってことは、西暦2000年問題、とかいうのに詳しい人、いる?」
「んー? ああ、いるよ。明日、ちょうどその問題の社内勉強会があるんだ」
「じゃあ、ちょっとその人に訊いてもらえないかしら」
「何を?」
「実はね、さっき、テレビで2000年問題の特集をやってたのよ。そしたら、もの凄く怖いVTRがあって……2000年になると同時に、なんだか、世界中がもの凄い状態になるって言うのよ!」
「もの凄い状態?」
「飛行機が墜落したり、原発が制御不能になって爆発したり」
「ハハハハ、まさか! いくらなんでも、そんな訳ないだろう」
「でも、テレビがそう言うのよっ!? 電気・ガス・水道も止まって、銀行に預けたお金もなくなっちゃうとか…」
「……銀行?」(注:某社のメイン事業は、銀行のオンラインシステムです)
「世界規模で大パニックになるんですって! 生き残るためには、そうなった時困らないように備えが必要だ、って。…ねえ、本当かどうか、一度、詳しい人にあなたから訊いてみてくれない? 私、そんなこと微塵も考えたことなかったから、もう不安で不安で…」
「……う……ま、まあ、そうだな。訊けそうなら、訊いてみるよ」


〜翌日・某社2000年問題勉強会終了後〜

「(ううむ…、困ったな。今の成田君の説明では、うちの会社のシステムに与える影響は多少わかったけど、肝心の電気・ガス・水道や飛行機がどうなるかまでは、全然わからなかったぞ。やっぱり個別で訊くしかないか…)」

「あー、成田君」
「……?」
「いや、ごめん、お休み中のところ」
「…何ですか」
「あのね。実は、僕というより妻からの質問なんだけど」
「…は?」
「昨日、テレビの特番で西暦2000年問題をやってたらしいんだけど―――このうち、実際に起こるのはどれか、会社の2000年問題担当者に是非訊いてよ、って言われちゃって。どれかなあ?」
「……」
・ビデオの予約が来年からできなくなる
・飛んでいる飛行機が制御不能になって墜ちる
・電気が止まる
・ガスが止まる
・水道が止まる
・預金の引き出しができなくなる
・原子力発電所が事故を起こす
・株価が大暴落する
・日本の企業の3分の1が倒産する
「―――…(どんな番組見たんだ?)」
「ど…どうかな?」
「全部です(自棄)」
「えっ!!!!??」
「全部、起きる可能性があります」
「……ハ……ハハハハハハ、ま、まさか、冗談だろキミぃ」
「……」
「…………」
「………………」
「…あ…あの、ホントに…?」


「えええっ!? ぜ、全部!? じゃ、じゃあ、テレビで言ってたのは、本当のことだったの!?」
「ま、間違いない。成田君は冗談を言うような男じゃないし、もの凄く真剣な顔で言ってたんだからな」
「どどどどうしましょう、あなた!」
「お、落ち着け、落ち着くんだ。ま、まずは、水…、水、水を買いだめしないと」
「カセットコンロのボンベも、今のうちに買い込んでおいた方がいいわよね」
「ああっ、年末年始と言ったら、真冬じゃないかっ。うちの暖房器具、電気なしで動くのか!?」
「だ、ダメですよ、ファンヒーターにエアコンですものっ。ス、ストーブ、ストーブ買いましょう」
「裕子と義男にも、年末年始は家にいろ、と今から言いつけておかないと。旅行になんぞ行かれたら、こっちの心臓がもたないぞっ」
「裕子ったら、4年生の冬休みは卒業旅行でハワイに行きたい、なんて言ってるんですよ。あの子、最近言うことを聞かないから、何がなんでも行く、って言われたらどうしましょう…?」
「いかーん! ハワイなんかに行かせたら、飛行機が落ちるぞ! 絶対ダメだ!!!!」


〜2000年6月・某大学の先輩と後輩の会話〜

「で、イギリスでは、2000年問題で、何か起きたのか?」
「いや。俺が見る限り、お祭り騒ぎばっかりで、特に何も」
「やっぱりそうか。確かAction2000とかいう団体が“食料を2週間分買いだめしろ”なんて言って物議を醸してたけど、真に受けるヤツも少なかったんだろうなぁ」
「日本はどうだった?」
「いやぁ、特に何もなかったぞ。異変なんて、一時的に、店頭からカセットコンロが消えたくらいのもんじゃないか? ガスが止まったらまずい、ってんで」
「真に受けた連中、どういう仕掛けでガスや水道が止まると思ってたんだろうな」
「さあ? よくわからんけど、なんでもよく知ってそうな奴が“止まるぞ”って言ったから、止まると思ったんじゃねーか?」
「思考停止してんな、そいつら…。よく考えろよ、全く」
「そういやぁ瑞樹、お前、2000年問題担当だっただろ」
「ああ」
「仮にもうちはIT企業だから、マスコミの煽りを真に受けるような奴もいなかったと思うけどな。もしお前あたりが脅してたら、マジにとって買いだめに奔走する輩も出たかも知れないぞ。ハハ…」
「…………」

何だろう。この既視感は。
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conversation-06:らいちゃんとしょーこちゃん

蕾夏・翔子、ともに5歳の頃。


「らいちゃん」
「なぁに?」
「しょーこね、大きくなったら、まーちゃんと結婚するの」
「えっ」
「まーちゃんも、いいよ、って言ってくれたの」
「……」
「だからね、タカシ君とマモル君とヨシオ君とケンタロウ君には、ごめんなさいするの」
「……えーと、しょーこちゃん」
「なーにー?」
「まーちゃんって、しょーこちゃんのお兄さんだよね?」
「そうよ」
「血がつながってるよね?」
「ちがつながってる、って、なーに?」
「…えーと…(具体的には説明不可能)本当のきょうだいだよね?」
「ニセモノのきょうだいって、どんなのー?」
「…えええええと…(ますます具体的には説明不可能)」
「らいちゃん、難しいこと、いっぱい知ってるんだもん」
「…んーと、しょーこちゃん」
「ハイ」
「あのね。お兄ちゃんと妹は、結婚できないんだよ」
「え?」
「だから、しょーこちゃんは、まーちゃんとは結婚できないの」
「!!!!!」
「…って、昨日おかあさんが見てたドラマで言ってた」
「うそだもんっ」
「でも」
「うそだもんっ。おかあさんが、テレビはうそつきだ、って言ってたもんっ」
「え、うそつきなの?」
「昔、トイレットペーパーがない、ってテレビが言ってたのに、いっぱいあったんだって」
「トイレットペーパー???」
「だから、うそだもんっ」
「でも、テレビでペンギンが歩いてたから見に行ったら、ほんとに歩いてたよ?」
「……」
「昨日のテレビで、明日は雨でしょう、って言ってたし、今、外、雨降ってるよ?」
「…………」
「あっ」
「…ええええぇぇぇん」
「……(どーしよ…)」
「ええええぇぇえん」
「しょ、しょーこちゃん」
「いーやーだーあーあーあー」
「だ…っ、だいじょうぶっ!しょーこちゃんには、タカシ君もマモル君もヨシオ君もケンジロウ君も」
「ケンジロウ君なんていないもんーーー」
「あれっ、いなかったっけ」
「まーちゃんじゃなきゃ、やだああああああぁぁ」
「……(誰か助けて下さい…)」
「うわああああぁあん」
「しょっ、しょーこちゃんっ!クッキー、食べる?」
「…しょーこ、クッキー食べられないもん」
「あ…、そ、そっか、クッキーは小麦粉だ。え、えーと、プリンもあるよ?」
「…プリンは卵だもん…」
「…卵もダメだったよね」
「うわああああぁあん」
「あっ!そ、そーだ!これっ!このぬいぐるみ、あげる!」
「ぬいぐるみ?」
「うん!おかあさんが、銀行でもらったの。トラのぬいぐるみ」
「…なんで、銀行でぬいぐるみがもらえるの?」
「よくわかんないけど…銀行のポスターの絵とおんなじトラだよ。可愛いでしょ」
「…あんまり、可愛くない」
「えっ、そう?」
「しょーこが持ってるイグアナのぬいぐるみの方が可愛い」
「…あれって、ぬいぐるみなの?」
「うん(注:剥製です)」
「…でも、このトラも、可愛いと思うけど」
「そうかなぁ」
「そうだよ。可愛いよ。しょーこちゃんが持つと、きっともっと可愛いよ」
「…えへへへへへ」
「はい、あげる」
「わーい。らいちゃん、大好きー」
「うんうん(よ、よかった…泣き止んだ…)」

◆その後の藤井家◆
「あら?蕾夏、銀行の粗品のトラさんは、どうしたの?」
「しょーこちゃんにあげた」
「え、どうして?名前つけるほど気に入ってたのに」
「…だって、しょーこちゃんが…」

◆その後の辻家◆
「翔子ッ!!返してらっしゃい!」
「うわあああああぁああん」
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conversation-05:10年越しの執念

「ふ」
「……」
「ふっふっふっふっふ」
「……」
「ふふふ……あーっはっはっはっはっはっ」
「……佐倉さん」
「な〜に〜? 何かしら、成田」
「…スーツのボタン、1つずれ―――…っ!!!!!!」
「うるさいわね。あんたに偶然会っちゃったから直してないだけで、とっくに気づいてるわよ」
「……(だからって、いきなりエルボーかますなよ)」
「それより、どうよ? とうとうあたしを撮ることになった気分は」
「……(まだ痛くて声出ねーよっ)」
「どうよ〜? ふふふふふ。ありがたく思いなさいよね。ヴォーグには載ってないけど、少なくとも、タレント化してないモデルん中じゃ、あたしより上のギャラはいないんだからね」
「…ま、そんだけ年食ったってことだろ」
「なーんーでーすってーーーー?」
「事実を述べたまでだ」
「とにかく、いいこと?」
「……(おい、スルーかよ)」
「10年前は、あんたもド素人・井の中の蛙・厚顔無恥と3拍子揃ったしょーもないカメラマンだったから理解してなかったようだけど、あの当時だってあたしは、素人カメラマンに頼まれることはあっても、こっちから頼み込む必要なんて全然ない、超一流のモデルだったのよっ。ましてや今なんて、成田レベルの新人カメラマンなら、地にひれ伏して拝み倒さなきゃ、普通は撮れないんだから。分かってるわね」
「…はいはい」
「何、その投げやりな返事は」
「はいはいはい」
「回数増やしゃいいってもんじゃないわよっ」
「あのな。さっきから“撮る撮る”言ってるけど、俺が撮るのは今日のショーに出るモデル全員で、あんたはその中の1人に過ぎねーんだからな。そこんとこ、ちゃんと理解しとけよ」
「名目はなんだっていいのよ。“撮らない”って宣言したあんたが、あたしを撮りさえすりゃ、それでこの勝負はあたしの勝ち」
「……(いつ勝負になったんだ)」
「あらら。それとも、あたしだけ撮らないとか言う? いいのよ〜? 撮らなくても。このショーのメインは一宮君で、そのパートナー務めるのはあたしだから。主役のパートナーが綺麗さっぱり抜け落ちてたら、クライアントも喜ぶでしょうね〜。喜びすぎて、成田のこと、コンクリート詰めして造成地の地下深くに埋め込んじゃったりして」
「…撮るって」
「はい?」
「撮らせていただきます、ってーの」
「…なんか、気持ち悪いわね、素直な成田なんて」
「分かった分かった。じゅーぶん分かった。そこまで撮って欲しかったんなら、あんたが涙流して喜ぶほどに撮ってやるよ」
「何、その言い方。別に撮って欲しかったわけじゃないわよっ」
「はいはい」
「撮らせてやるって言ったのに、ど素人のあんたが断ったのがムカついただけよ。わかってんでしょうね!?」
「はいはいはい」
「わかってるんなら、もう一度きっちり言い直しなさいよ。ありがたく撮らせていただきます、ってね」
「ありがたーく撮らせていただきます」
「……」
「なんだよ、その目」
「…あんた、何か企んでない?」
「別に?」


―――数日後―――


RRRRRR、RRRRR…

『はい』
「成田っ!!!」
『―――…(なんで電話番号知ってるんだ?)』
「ちょっと、あんた、一体どーゆーつもり!?」
『さあ、何のことやら』
「何のことやら、じゃないでしょっ! 写真よ! 今朝うちのポストに投函されてた、差出人不明の封筒に入ってた写真!!!」
『…あーあ…あれね』
「あれね、って……あ、あんたね! 一体いつ撮ったのよ、あんな写真!」
『ショーの時』
「そりゃ、見りゃ分かるわよっ。ステージ衣装着てるんだから」
『あんたのお望みどおり、あんた1人の、しかもブレストショットだろ。何カリカリしてんだよ』
「当たり前でしょ! 何がブレストショットよ。一体、あの日のいつ撮ったのよ!?」
『ショーが始まる前のミーティングの後、あんたと奏が廊下でぐだぐだ世間話してた時に撮った』
「……」
『拳まるごと口ん中入りそうな、見事な大あくびだったよなぁ。決定的シーンに出くわせたのも、ひとえに“佐倉先輩”がミーティングで眠そうに半分目を閉じかけてたからだし。感謝感謝』
「い…今すぐ、ネガごと廃棄処分にしなさいよ!」
『残念。デジカメだから、あれ』
「消しなさい!」
『蕾夏のデジカメだから。じゃーな』
「こらーっ! 彼女のデジカメなら、彼氏権限で何とでもしなさいよっ!」

ぷつっ。

…ツー、ツー、ツー

成田瑞樹V.S.佐倉みなみ:1勝1敗、リターンマッチ予定なし。 
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conversation-04:しあわせアイス

※「Step Beat」49〜61話辺りのつもりでお読み下さい。

「何、それ」
「え、これ? 久保田さんのおみやげ」
「…外回りのみやげが、アイスか? しかも真冬に」
「いいじゃーん、真冬にアイスって。それにオレ、グリコのジャイアントコーンて、アイスってカテゴリーを越えて大好き」
「ふーん(なんだそりゃ)」
「あ、ごめん、成田の分はないから」
「…いらねぇよ」
「んじゃ、いただきまーっす」
「……」
「あー、幸せー」
「―――めちゃくちゃ幸せそうな顔して食うよな、カズって」
「だって、おいしいもの食うのって、幸せじゃない? ジャイアントコーンは、この上のパリパリしたチョコの部分が特においしいんだよね。成田、絶対人生損してるよ。甘いもの苦手だなんて」
「ほっとけ。―――あれ? そのネクタイ―――…」
「あっ! 気づいた? 気づいた? 気づいちゃった〜?」
「…なんだよ、気色悪い」
「だって、誰も気づいてくれなくてさー。こっちから自慢する訳にもいかないから、朝からウズウズしてたんだよね」
「……(黙っときゃよかった)」
「なーなー、成田はこれ、どうしたと思う?」
「…さあ…?」
「ふふふふふふふ、何を隠そう、奈々美さんからのプレゼントなんだよねーっ!」
「…あ、そう」
「でも、不思議じゃない? オレ、誕生日でも何でもないし、クリスマスでもバレンタインデーでもないし、なんでこんな時期にプレゼントくれるのか。不思議だよね。気になるだろ?」
「…俺は、むしろその溶けそうなアイスの方が気―――…」
「気になる!? やっぱり気になるよなぁ」
「……(もう何も言うまい)」
「聞いてよー。実はこの前、奈々美さんとデートで映画観に行ったんだけどさ。あ、観たのは、王道でラブロマンスものね。その日の奈々美さん、もーめっちゃくちゃ可愛くてさ! 日頃って、背が小さいの気にして、大人ぶったスーツばっかり着たがるじゃん。あ、勿論、実際にオレより大人ではあるんだけど。…とにかく、その日は奈々美さんにすっっっっっごい似合うベロア素材のワンピース着てたんだよね。コートもフワフワの白いコートで、奈々美さんが着ると白ウサギみたいでっ。あー、こんな可愛い人がほんとにオレの彼女なのかー、って感動に浸ってたのよ、オレ」
「……」
「でも! やっぱ可愛いと、目をつけられるんだよね。オレがちょっとパンフレット買いに行ってる間に、変な高校生が2人、奈々美さんに言い寄っててさ! 信じられる!? 高校生が27歳をナンパって、お前ら10年早いぜ! って思わない!? 頭きたから、オレ、即座に飛んでって、目の前で携帯から警察に電話入れてやったんだ」
「―――はぁ!? 警察!?」
「当たり前だろ。あのまま放っておいたら、奈々美さん、勝手に連れてかれちゃったんだよ? オレが来たから未遂だけど、立派な“誘拐”だよ」
「……(何故そうなる…)」
「連中、ビビってすぐに逃げちゃったんんだけど、すんげーしつこい連中だったから、奈々美さん、半分泣きそうになっててさ。オレが“もう大丈夫だからね”って言ったら、抱きついて泣いちゃったんだよね。あー、可愛かったなー、あの時の奈々美さん…」
「―――…」
「で、助けてくれたお礼に、何かプレゼントしてくれる、って言ったんだ。あ、勿論、断ったよ? オレ、奈々美さんの彼氏なんだし。助けるのは当たり前だもんね。でも、どーしても感謝の気持ちを物にして表したいって言うから、じゃあ毎日身につけられるものがいいなー、って。そしたら、このネクタイを―――…」

「…あ、」
「あーっ!!!!」

「……」
「…………」
「…やっぱり、落ちたか」
「やっぱり、って、何だよっ」
「さっさと食わないからだろ。良かったじゃん、溶けて落ちたのが、大好きなトッピング部分じゃなくて」
「アイス部分だって好きなんだよっ」
「大丈夫大丈夫、アイス部分も、まだ3分の2は残ってる。ノープロブレム」
「大プロブレムだよっ!!」
「…アイスが落っこちた位で、涙目になるなよ、ガキじゃあるまいし…」
「うるさいっ! 食べてる最中に成田が質問してくるから、こんなことになるんだろっ!?」
「喜んで訊いてもいねーことまで答えてた癖に…」
「あああああああ、オレのジャイアントコーンが…」
「…さ。デバッグの続きでもするか」
「おいっ。スルーするなよっ」
「そこ、早く拭いた方がいいぜ。ミーティングテーブルがベタベタなままだと、後で使う奴に文句言われるから」
「……うん」
| Conversation | 12:20 | comments(11) | trackbacks(0) | - | - |

conversation-03:理想の結婚式

―――式の形式について―――

「決まっておろうが。教会式だ」
「日本人なら、しっとり神式ですね」
「神社か。お前さんも、洋風ななりしとる割には、好みが渋いのぉ」
「あんたこそ、いい加減じいさんになって相当年数経ってる割には、随分洋風なこと言いますね」
「お前さんとこの娘は、背が高くてかかしみたいじゃからな。あれで角隠しなんぞした日には、式場の天井を突き破るじゃろうと思って、あえてウエディングドレスにしてやっただけじゃ」
「な…なんて失礼なことを言うんですかっ! それを言うならわたしも、あんたんとこの孫の脚の長さを隠蔽するには、洋装より羽織袴の方がいいだろうと気を遣ったんですよ」
「何を言っとる! 隼雄はわしに似て脚が長いぞっ!」
「久保田隼雄はさておき、あんたの脚のどこが長いんですかっ! そもそもあんたがいつも和服を着てるのは、スタイルでわたしに見劣りするからでしょうが!」
「なんじゃとおおおぉ!!!!」

―――食事について―――

「和食じゃな」
「洋食ですね」
「…神式の結婚式をやった後に、洋食を食う気か、貴様は」
「あんたのも変ですよ。教会で式挙げた後に和食ですか」
「わしは鯛のおつくりと海老の天ぷらが食いたいんじゃよ」
「わたしもシュリンプサラダと子牛のステーキは譲れませんね」
「……」
「……」
「和洋折衷っちゅう手もあるぞ」
「どうでもいいけど、腹が減りましたねぇ…」

―――ケーキカットについて―――

「いらん。アホらしい。やめとけ」
「夫婦の共同作業の第一歩でしょう。一応やっといた方がいいんじゃないですか」
「なんで共同作業の象徴がケーキカットなのか、そこが分からん。ケーキっちゅうのは、1人で切るもんじゃろうが」
「普通にやることだったら、儀式として面白くないでしょうが。いくら実際に共同でやるからって、出席者の前で大掃除や週末の買出しをやる訳にはいかないんですから」
「発想が貧困じゃのー。夫婦共同でやるっちゅうたら、その程度のことしか思い浮かばんのか」
「じゃあ、あんたは何か思い浮かぶもんがあるんですか。夫婦ならではの共同作業」
「…いや、まあ、あることはあるが、な」
「……」
「……」
「…………」
「…もしかして普通、人前ではやらない類の共同作業なのでは」
「鋭いな。口には出すな。品格を疑われるぞ」
「考えてる時点で十分品格を疑われますよ」

―――キャンドルサービスについて―――

「お、うな丼が届いたぞ」
「良かった。あと5分遅かったら、暴れたくなるところでしたよ」

(中断中)

「…あんた、その山椒のかけ方、ちょっと異常じゃないですか」
「ほっといてくれ。わしは山椒山盛りのうな丼が好きなんじゃ」
「で、なんでしたっけ―――ああ、キャンドルサービスか。いらないでしょう、あんなの」
「いーや。これは必須じゃ」
「は? ケーキカットは拒否したくせに、こっちは必須とは、随分妙なこと言いますね」
「ケーキカットは、見てても何も面白くないからな。キャンドルサービスは面白いぞ」
「どこが」
「来賓席の“新郎新婦ご友人”卓は、必見じゃ。必ず1つは、キャンドルの芯を湿らせて、火がつかないようにする卓があるからな」
「…なんとなく、今回は“新郎親族席”が危険な気がしますけどね」
「当然じゃろ」

―――感謝の手紙&花束贈呈について―――

「必須! 必須必須必須必須、絶対外せません!!!!」
「…お前さん、何をそんなに熱くなっとるんじゃ」
「あの瞬間こそが、親としての醍醐味でしょうが。手塩にかけて育てた娘が、“お父さん、ありがとう”と感謝をこめて花束を差し出す…その目には“私はいつまでもお父さんの子供だからね”という思いがにじみ出ていて、感謝のあまり涙さえ浮かんでいる。母親ならもらい泣きするところだが、父親はこみ上げる涙をぐっと堪えて、黙ってハンカチを妻と娘に差し出す!」
「……」
「ああ、感動のシーン! 参列者ももらい泣き必至! 佳那子も結構泣き虫だからなあ。思わずわたしに抱きついて“ごめんなさい、やっぱり結婚なんてやめて、ずーっとお父さんと暮らすわ”なんて言うかもしれんなぁ」
「…今年の春は異常気象で夏並みの暑さじゃからなぁ…。大丈夫か。重症にならんうちに、精神科にかかった方がいいぞ」

―――そして、こうなった―――

「佳那子はウエディングドレス、久保田隼雄は紋付はかまで、特設チャペルに牧師と神主を呼んで多角的結婚式を行う、と。食事は和洋折衷、海老の天ぷら、鯛のおつくり、シュリンプサラダと子牛のステーキは必須でよかったですよね」
「うむ。ケーキカットはやめ。その代わり、披露宴会場に区役所の臨時出張所を設置、参列者の前で2人で婚姻届にサインをして、その場で提出する。これは我ながらナイスアイディアじゃな」
「キャンドルサービスは余興にしましょう」
「そうそう。“さあ、5本あるキャンドルの中で、どのキャンドルがちゃんと火のつくキャンドルか!”っちゅーのを全テーブルでやって、一発で火が点かなかったテーブルでは隼雄か佳那子さんがワイン一気飲みじゃったな」
「酒豪カップルならではの企画ですよ。我ながらいいアイディアだったなぁ」
「感謝の手紙と花束贈呈は、10分程度のミニドラマにすることにしたんじゃったな。ううむ、誰かに脚本を書かせないといかんな…」
「列席者全員が涙するような、感動のドラマにして下さいよ」
「最終シーンは、“ひしと抱き合う父と娘”じゃろうが。わかっとるわい。しかし、そのシーン、新郎はどうなっとるんだ?」
「どうでもいいです。スポットの外にでも追いやっときましょう」
| Conversation | 11:35 | comments(9) | trackbacks(0) | - | - |

conversation-02:B級映画のゆうべ

「何だよ、このDVD」
「小松君に借りたの。彼女さんと見て、結構盛り上がったからお薦めなんだって」
「ふーん…。いかにもB級の冒険活劇っぽいパッケージだな」
「瑞樹って、冒険活劇系、苦手だっけ」
「いや、別に。ただ…筋が決まってんだよな、この手のやつは。期待できねーよなー…」
「うーん、じゃあ、やめとく?」
「見るもんねーし、試す位はいいんじゃねーの」
「じゃ、とりあえず、スタート」

―――10分後―――

「……」
「……」
「ハハハ、やっぱり」
「あはははは、ほんとだ、ヒロイン登場だ。凄いなぁ、予想通りのタイミングで出るなんて」
「しかし…こんな頭悪そうな考古学者、いるかよ。そういう設定なんだろ? このヒロイン」
「みたいだね。主人公とヒロインが手を組んで財宝探すのが、この手の定番だから、素人よりは考古学者の方が設定としては自然なんだろうけど…確かに、砂漠が似合わない女の人だなぁ」
「げ、鞭なんて持ってやがる。“インディ・ジョーンズ”のパクリか」
「服装からすると“ロマンシング・ストーン”のパクリじゃない」
「岩が転がってきたら、笑うぞ」
「トロッコでのカーチェイスが出てきても、笑うね」

―――更に10分後―――

「わはははははは」
「あはははははは」
「無茶するなぁ。“ターザン”のパクリかよ」
「“クロコダイル・ダンディ”のパクリなんじゃない? 動物語を解してるとしか思えないよね、このヒーロー」
「さすがB級だな。有名どころのパロディの寄せ集めみたいだ」
「いくつ出てくるか数えてたら面白いかも。“ホット・ショット”みたいで」

―――更に10分後―――

「……」
「…なんて唐突なラブシーンだよ」
「…あるだろうとは思ってたけど…またいきなりな展開だね」
「なるほどな。このシーンのために、こんな頭悪そうな女を起用してた訳だ。プレイメイトみたいな女だもんな」
「…ごめん。それ、どんな女の人を指すのか、よくわかんない」
「こういう女」
「…ええと、つまり、胸が大きくて、全身色気だらけの女の人? うーん…てことは、男性客が喜ぶシーンな訳か、このシーンって」
「俺は好みじゃねーけど」
「私も好みじゃないけど」
「この主役みたいな男が?」
「じゃなくて、こーゆーシーンが!」

―――更に10分後―――

「…またやるのかよ。しかも真昼間に」
「しかも、遺跡の中で。…ポルノ映画と間違えたかなぁ…。小松君、そんなこと言ってなかったけど」
「お前、かつがれたんじゃねーの」
「そんなことないってばっ。ほら、パッケージにも書いてあるじゃない。“財宝を巡るアドベンチャー・ロマン”って」
「ま、いいけど。俺は平気だから、こういうの」
「やっぱりさ、この女優さんのスタイルが抜群だから、起用したからには目一杯出さなきゃ、って思ったんじゃないかな、監督さんが。他のシーンは、色気のない迷彩服みたいな服でしょ。あれじゃスタイルのよさが全然生かされてないしさ」
「…そうやって冷静に分析して、このシーンを直視すんのを避けてるだろ、お前」
「そ、そんなこと、ないよ?」
「じゃ、何か感想、言ってみろよ」
「う、羨ましいなー、とか思うなぁ。あの位胸あったらいいなぁ、とか」
「…ほー」
「…何、その目」
「……」
「……え??」

―――約5分後―――

「きゃはははははは! ゆ、許して許して許して」
「往生際の悪い奴だな。くすぐったいのは、抵抗するからだ。大人しく脱がされろ」
「大体、なんでこんなことになってるの!? 映画は!?」
「飽きた。しかも、まだ絡んでるシーンだし」
「そ、そりゃそうだけど―――だだだだだ駄目だってば、こらっ」
「もう半分脱いでるんだから、全部脱いだって同じだって」
「同じじゃないよーっ」
「大体、男なら全員Eカップが好みだと思い込んでるお前がおかしい」
「だからって、こんな風に証明することないじゃんっ」
「問答無用」
「ひどいーーーーっ!!!」

―――3時間後―――

「……あれ、今、何時だ……?」
「……」
「…おい、蕾夏。DVD止まってるぞ。巻き戻して見直すか?」
「……」
「おーい」
「…んー…」
「どうする、DVD」
「…もういいー」
「…じゃ、寝なおすか」

―――翌朝―――

「おはようございまーす」
「あ、藤井さん、おはようっす。DVD、見ました?」
「え? あ、うん。ありがと、返すね」
「結構面白かったでしょ」
「うーん…まあ、まずまずかなぁ? ありがちな展開すぎって感じはするけど」
「けど、最後で、大どんでん返しがあったっしょ」
「えっ」
「あの結末は、自分的には結構意外だったんすけどねぇ」
「…あ、あはははは、そ、そうかな(どんな結末だったんだろう)」
「まさかあの考古学者が、ねぇ」
「うんうん(何のこと?)」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「…藤井さん。最後まで見てないんすね」
「…えっ」
「いや、自分らも、そうだったんで」
「……」
「でも、盛り上がったでしょ。彼氏と」
「…そういう意味だったのね」
| Conversation | 23:42 | comments(10) | trackbacks(0) | - | - |

conversation-01:わがまま姫の憂鬱

「ダメ。全部却下よ」
「…翔子。30枚もの見合い写真を断るのに、その一言だけってのは凄く不親切だぞ」
「でも、ダメなもんはダメよ。どの人もまーちゃんにはふさわしくないんだから」
「ちゃんと写真見て言ってるか?」
「見たわよ。1枚1枚、じっくりと」
「よし。じゃあ、この人は?」
「冗談でしょ。地味な顔なのに、それ自覚してないとしか思えないメイクしか出来ない女なんて。お見合い写真って、凄く気合の入るものなんでしょう? それでこのレベルじゃ、期待できないわ」
「……」
「それに、今時、こんなスタンドカラーの白いブラウス着てる女なんていないわよ。絶対ダメ。検討対象にもならないわ」
「…お前、いつからそんな毒舌になったんだ?」
「まーちゃんの女性関係に関しては、1桁の年齢の時から、こんな風だったわよ」
「…言われてみれば、そうかもしれないな」
「でしょ」
「こら。自慢することじゃないんだぞ。…ええと、じゃあ、この人は?」
「今度は派手すぎ。銀座のスナックのママじゃないんだから、アイシャドーの入れ方、もっとナチュラルにして欲しいわ。いくつか知らないけど、絶対まーちゃんより年上に見えるわよ。恥ずかしいから、却下」
「じゃあ、こっち」
「目が離れすぎ。ひらめみたい。許せないわ」
「これは?」
「やだぁ、のっぺらぼうに化粧品でパーツ書き込んだみたいな顔じゃない。化粧落としたらどうなるか、想像するだけで怖いわ」
「じゃ、これ」
「この媚びてる感じの目つきがいやらしくてキライ。まだ若いし、将来絶対浮気しそう。まーちゃんが不幸になるのを黙って見てられないわ」
「…なあ、翔子」
「なによ」
「お前、1ミリの誤差も許さないような診断を下してないか?」
「当たり前でしょ。将来、この私が“おねえさん”て呼ばなきゃいけない相手なのよ? 完全に納得のいく相手でなきゃ、この先何十年も親族関係やってくなんて不可能よ」
「じゃあ訊くけど、藤井さんの顔は完璧か? 特別美人じゃないし、化粧も地味だぞ?」
「蕾夏は別格よ。中身をよく知ってるもの。写真だけで判断するとしたら、見た目重視でいくしかないじゃないの。そりゃ、蕾夏と同じ顔がこの中にあれば、親しんできた顔、ってことでその人選ぶ可能性はあるけど、そうじゃないなら、やっぱり“美しい中にも親しみが持てる、優しそうで思いやりのありそうで嫌味のない、完璧な美女”でなきゃイヤよ」
「…そんなこと言ってたら、一生相手なんて見つからないよ」
「世界は広いわ。どこかにはいる筈よ。いつ見つかるかは保証しないけど」
「僕だって、そんなに若いわけじゃないんだよ? 翔子は僕に、妻どころか彼女もいない、わびしい30代を送り続けろって言うのか?」
「……」
「あそこのご兄妹は、どちらも優秀で容姿も人並み以上なのに、浮いた噂の一つもなくて、何か問題でもあるんじゃないかしら、なんて言われてもいいのか?」
「…なんか、妙に具体的でリアリティーありすぎじゃない?」
「…もう言われてるからだよ。親戚とか、お向かいの横井さんとかに」
「……」
「いいかい、翔子。恋愛にも結婚にも、妥協は必要だ。妥協できてこその一人前の大人、って考え方もあるんだぞ。もっと妥協しなさい」
「…でも…あああ、やだやだやだ、蕾夏以外の女を“おねえさん”なんて呼ぶの」
「じゃあ藤井さんを奪還するって言うのかい?」
「…それは」
「嫌がる藤井さんを、無理矢理成田さんからひっぺがしてくるとでも?」
「…うううう」
「翔子」
「はい」
「妥協しなさい」
「……わかったわ。でも、1つだけ条件つけさせて」
「どんな?」
「細かいことは言わないから、せめて外見だけでも、私より上にして」
「…自分の外見を自覚した上で言ってるのか、それは」
「あら。私は親切で言ってるのよ。兄嫁が小姑より格下じゃ、まーちゃんだって立場ないでしょ?」
「―――…」
「さ。探してきて頂戴。私より美人の女」
「……翔子……すっかり嫌な女になって帰ってきたなぁ…」

…すみませんすみませんすみません(汗)
いきなり何だよ、とお思いでしょうね(^^; ええ、結城もそう思います。
…というのは冗談で、前々からこういう会話オンリーのSSモノは考えてたんですが、発表の機会もないし、発表方法も上手いこと見つからなかったので、実行に移さなかっただけなんです。

と言う訳で、「Conversation」。会話だけで紡がれる、お遊びショート・ストーリーです。
基本的に、「Step Beat」のキャラを弄繰り回しております。本編とは完全に無関係。キャラも壊れ気味です。本編の風情を重んじたい方にはお薦めできません。

第1回目は、翔子&正孝。辻兄妹の、兄嫁探しの一幕です。
翔子の憂鬱、って言うより、正孝の受難、て感じですが。

「Conversation」は、思いついた時だけ、Blog限定の掲載となります。
| Conversation | 13:53 | comments(5) | trackbacks(0) | - | - |

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